君にはクライアントと対等の立場で仕事する資格は(ほぼ)ない!
デザイナーはある程度の経験を積むと、自分のアイデアや意見がクライアントの担当者よりも正しいと思ってしまう。自信と過信は大きく違うのだが…
クリ絵(26歳)=グラフィックデザイナー歴4年目の向上心旺盛な女性。ようやく担当のクライアントを持ったが、デザイン業界の将来性に不安を持っている。
師匠(55歳)=地方都市でデザイン制作会社を経営するアートディレクター。約20名のクリエイターとともに多くのクライアントの様々な案件に取り組んでいる。
クリ絵:私、良い仕事をするためにはクライアントと制作側はフィフティ・フィフティの関係でないといけないと思うんです。
師匠:まぁ、若いクリエイターはみんな言うわな。対等の立場でないと良い仕事ができない、って。
馬鹿を言っちゃいけないよね〜。
クリ絵:馬鹿って、な、なんてこと言うんですか、師匠。いつでも言われていることじゃないですか。大切なことでしょ! 私は対等に扱ってもらえずに何度もつらい思いをしてるんです。
師匠:私の25年の経験から言っていいかな。
フィフティ・フィフティの関係というのは、案件に携わるデザイナー、カメラマン、コピーライターといった表現者たちとの関係であって、決してクライアントとクリエイターの関係のことではないと思うのですよ。
クリエイター同士がお互いの意見をぶつけあい、才能を発揮していくプロセスを何度も見てきたし、広告代理店の担当者とはさんざんやりあってきたよ。でも広告主との関係は、直取引でも代理店からの依頼であっても、やっぱり主従なんだな。
クリ絵:え〜。理不尽なことをされても我慢しなければいけないんですか?
フィフティ・フィフティの関係になるための条件
師匠:君の理不尽なことって大したことでもないんだろう。表現案に直しが入ったり、自分たちの主張が通らないとか、そんなレベルのことだろ。
フィフティ・フィフティの関係でやりたいなら、まず、クライアントの業界のことをクライアント以上に勉強し、クライアントの売上げアップのために有効な手段をクライアント以上に日々考えていられるクリエイターになれるんなら、対等の関係もありだけどね。でもね、そんなクリエイターに私は今までに出会ったことも聞いたこともないね。
クリ絵:確かに、担当するクライアントは1社だけじゃないし…。経営のことは自信ないし…。売上げの責任取れないし…。
師匠:デザイン業界のクリエイターとは、クライアントに寄り添い、時にはクライアントに教えを請い、経営者や担当者の分身となって問題の本質を探り当て、解決方法を見つけ出し、カタチにするサービスを提供できる人のことなんだよ。仕事の過程でお互いに信頼し、尊敬しあう幸福な関係になるんだよ。
それに表現案を選ぶのはクライアント側だし、最終責任を取るのも彼らだぜ。
クライアントの担当者と表現内容について自分の主張を1ミリも曲げずに本気でケンカしているようなクリエイターは、どうしようもないと思うね。さっさとデザイン業界から足を洗ってアーティストを目指せばいいと思うね。これ、良いアドバイスだと思うけど。
クリ絵:ちょっと、今のはキツいかも…。
クリ絵が分かったこと
クライアントと対等の立場に張り合うのでなく、寄り添い支えるのがクリエイターの役割。
自分たちの職業はアーティストではないんだと認識すべし。